これは多くの人にすすめられる本。
著者の作品については、去年の秋に読んだ「疾走」によって、自分自身をかなり消耗したような気もするし、とてつもないパワーをもらったような気もする。特にお気に入りの作家というわけでもないのだが、気がつくと読んでいる。ただし「疾走」は他の作品に比べると相当ダークな内容となっているので、はじめて読む方は(へんな言い方だが)覚悟を決めて読む必要がある。
さて「卒業」であるが、こちらは一読した限りでは衝撃的と言うほどのストーリーでもなく、いわゆる「死」をテーマとした4つの短編から構成されている。4という数字を死とかけたのか?というのは考えすぎだろうか。いずれも異なる登場人物の視点から、それぞれ独自のストーリーが展開されていき、身近な人の死に対する敏感かつ繊細な心情がよく描かれていると思う。死といっても千差万別で、本当にいろいろな死の姿や形がある。この本を読むと、人にとって "生きかた" は大切であるが、"死にかた" も大切なんだと感じる。亡くなった人はこの世にいないけれども、残された人々の心の中で生きているのである。重いテーマでありながら、本書はそれを重く感じさせず、むしろ軽快とも言えるほどの巧みな表現とユーモアがあり、いつのまにか夢中になって字面を追っている自分がいた。卒業。この平凡なタイトルでありながら、いや、平凡だからこそ、そこに深い意味が込められているのではないか。
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